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サーシャとケイト

 

「ケイト!わたしに剣術を教えて!」

小さな主君からのいきなりのお願いに剣の手入れをしていたケイトは目を見開いた。

「剣術を教えてって・・・。サーシャ様、どうかなされたのですか?」

落ち着いてケイトはお願いしてきた小さな主君を見つめた。

空色を思わせる髪に蒼瞳・・・どこはかとなく気品を感じさせる小さなお姫様。

そう思わせるサーシャの容姿とは裏腹にサーシャの深い蒼色の瞳には決意にも似たものが宿っていた。

「お願い、ケイト。城の皆にお願いしたのだけど、誰も相手にしてくれなかったの。」

サーシャはケイトを深く見つめながら言う。

ケイトはふぅと小さくため息をつくと、手入れをしていた剣を元の鞘に収めながらサーシャに言った。

「サーシャ様、何思いそうお願いをされたのか分かりませんが、サーシャ様は剣など持つ必要はありません。何かあればわたしがお守りいたします。」

守るべき小さな主君に剣を持たせるなんてもっての外だった。

「ケイトもそういうのね。城の皆もそんな風にいって断ったわ。」

残念そうにサーシャは瞳を曇らせて呟く。その様子に思わず「いいですよ。」と言ってしまいそうになる気持ちを抑えてケイトは続けた。

「わたし達騎士は、サーシャ様やリーザ様、ロファール様を守るのが仕事です。

それは決して、貴女様のような小さな姫君に剣を持たせることではないのです。」

「でも、嫌なの!もう守られるだけじゃダメなの!」

思わずサーシャはそうケイトに怒鳴りつけていた。

そのサーシャにケイトは目を丸くして驚いた。

サーシャがこのように怒鳴るなんて事はいままで一度だってなかった。

当のサーシャは顔を真っ赤にさせて目に涙を浮かべてヒクヒクと鼻を鳴らせながら続けた。

「わたしがもっと・・・もっと・・・ヒック、だ・・・ヒッ・・・けが・・しなかった・・・

ヒック・・・・ヒッ・・」

何かを話そうとしているようだが、涙と嗚咽で言葉にならない。

その様子を見ているのが大変辛くなってケイトは白いハンカチでサーシャの涙をふき取った。

「サーシャ様・・・まさかまだ、あのときの事を・・・。

あれはサーシャ様の所為ではありません。それに彼だってすぐに良くなったではありませんか。」

そういって、少し前に起こった事件を思い出す。

その事件でサーシャは盗賊に誘拐されたのである。ウエルトの騎士団がサーシャを助け出したのだが、その時にある一人の若者がサーシャを庇って深い傷を負ったのである。その若者はサーシャの幼なじみで大変仲の良かったのである。

その若者は三日三晩昏睡状態であったが、目が覚めるとすぐに回復した。

しかし、サーシャはその若者が自分の所為で傷を負ってしまった事に自分自身を責めていた。

「もう・・・ヒック、わたしのために誰かが傷つくのなんて・・・ヒッ。」

落ち着いてきたがまだ、嗚咽は止らない。

ケイトはそんな必至なサーシャを見つめると

「サーシャ様、失礼します。」

といってサーシャを優しく抱きしめた。腕の中のサーシャはあまりにも小さく、力を入れたら壊れてしまいそうだった。

(ああ・・・そうだった。わたしもあの誘拐事件の時からこの幼い少女を守る事を誓ったのだ)とケイトはサーシャを見つめながら思い出す。

「サーシャ様、剣術は教える事はできませんが、護身術程度でしたらお教えいたします。」

ケイトはサーシャにそう優しく言う。サーシャはケイトの胸にうづくまったまま何も言わない。

(そう、サーシャ様が剣を持つような危険にはもうさらさせません。

サーシャ様に害を成すものは全てわたしが排除します。それがたとえ・・・誰であろうとも。)

そう心の中で決意するとケイトはサーシャを強く抱きしめた。

急に腕の力が強くなったのに、サーシャは驚いてケイトを見上げる。

ケイトは優しく微笑んでいた。

 

それから、サーシャはケイトからある程度の護身術を学んだ。

同時に簡単な剣の扱いも教わった。

 

5年後・・・・

ペガサスに乗ったサーシャは前線にケイトと共に立っていた。

(あれから5年・・・今のわたしはあのときの無力な子どもではないわ。今度はわたしが誰かを守る番・・・)

そう決意して空に舞い上がった。